ジブリ作品「千と千尋の神隠し」で、
千尋がもとの世界に戻るためのキーパーソンとなったのがハクです。
この「ハク」の正体については、作品の読み解き方によってさまざまな解釈があることが知られています。
ファンの間ではさまざまな説がとりざたされており、一部「都市伝説」と化しているものも…。
今回は、ハクの正体について、有名な都市伝説をいくつか紹介します。
もちろんスタジオジブリが公式に出している説明とは異なりますが、作品観賞後の「お楽しみ」のひとつとして読んでみてくださいね。
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物語内でハクはどんなキャラクター?
まずは「千と千尋の神隠し」のハクについて、
物語内での活躍や千尋との関係を簡単におさらいしておきましょう。
「帳簿預かり」とは?
物語の舞台となる湯屋で、ハクは帳簿預かりという仕事をしています。
これは現代の会社でいう「経理」の仕事ですね。
湯屋のお金をまるごと管理する仕事ですから、従業員の中でも高い立場とえいます。
また、ハクは湯婆婆の弟子でもあり、湯婆婆の代わりに従業員の世話も行う役割も担っています。
人間である千尋が湯屋で働くことに口添えをしたのもハクでしたね。
湯屋の中では湯婆婆の次に権力がある立場として描かれています。
千尋とハクの関係は?
千尋のピンチに何度も駆けつけるなど、ハクの中で千尋は放っておけない存在です。
(なぜ、「放っておけない存在」なのかを考えるのが、ハクの正体を読み解く上でのポイントです:後で説明します)
千尋の方もハクに命の危険が迫ったときにはどうにかしようと必死に努力する姿が見られました。
窯爺は千尋とハクを見ながら「愛じゃ」とつぶやいていました。
二人は「お互いを大切に思い合う仲」というわけですね。
ハクの正体は「本名」から読み解くのがポイント
次にハクの正体について考えていきましょう。
ハクの正体については「彼の本名」から読み解いていくのがポイントです。
「千と千尋の神隠し」は「名前」が一つのキーワードになっています。
物語の中で、千尋は自分の名前を「千」として下働きをします。
そして、千尋・ハクともに物語のラストで「自分の名前を取り戻す」ことにより自分の世界に戻っていくことができ、ハッピーエンドを迎えます。
このように、なぜ、物語の中では「名前」が重要なキーワードとして扱われていのでしょうか?
名前をうばわれると「従属的な立場」になってしまう理由
これについては、実は深い理由があります。
古来、中国大陸や朝鮮半島、さらに日本では「相手の名前を呼ぶこと・知ること」はとても失礼な行為とされてきました。
なぜならば、昔は呪術(人を呪い殺すなど)が信じられていたからです。
呪術をもちいるにあたっては、相手の名前を知る必要があります。
逆に言えば、自分の名前を相手に知られてしまうと、相手から呪い殺されてしまうというリスクがあったのです。
このようなリスクを回避するために、
昔の人たちは自分と特別な関係にある人を除いては、自分の本名を伝えないようにしていました。
自分の「本名」は昔の人にとってトップシークレット
いわば、「自分の本名」はぜったいに秘密にしておきたいトップシークレット扱いだったわけです。
自分の本名は「諱(いみな)」として、ごく近しい親族にしか知らせないのが当たり前でした。
(いみな=忌み名=忌まないといけない名前)
例えば、中国の歴史上「秦の始皇帝」という人がいましたが、この人の本名は嬴政(えいせい)といいます。
この嬴政という名前を知っていたのは、彼の生前は父親と母親など目上の親族だけだったと言われています。
諱(忌み名)と字名(通称)
時代が現代に近づくに従って、「本名(忌み名)をぜったいに伝えない」というところまで厳密ではなくなっていきますが、
それでも「目上の人を本名で呼んではいけない」という風習は残ります。
これは逆に言えば、
「相手の本名を呼んでも良いのは、目上の人だけ」というルールができていったということでもあります。
例えば、織田信長の本名は「信長」ですが、
彼の家臣たちは「信長様」などとは絶対に呼びません。
「上様」とか「お館様(おやかたさま)」といったように呼んでいたはずです。
相手の名前を奪う=相手を支配する
「千と千尋の神隠し」の中で、
「相手の名前を奪う=相手を支配する」
という法則が描かれている背景には、
こうした中国〜朝鮮〜日本における古来からの風習に基づいているのです。
ここまでの知識を前提にすると、
「ハク」の正体はその本名について知るとより深く考察することが可能になります。
ハクの本名は「饒速水小白主(ニギハヤミコハクヌシ)」
湯屋ではみんな名前の一部を取られて呼ばれています。
千尋も「千」の字をとって「千(せん)」と呼ばれていましたね。
湯屋では湯婆婆に本名を申告しなければいけませんが、
ここで本当の名前を言ってしまうと現実の世界へ帰れなくなってしまいます。
千尋はわざと自分の名前を間違えたため大丈夫でしたが、
ハクは本名を言ってしまったため、帰り方も自分の本当の名前も思い出せずにいました。
しかし千尋のおかげで本当の名前を思い出すことが出来ます。
そんなハクの本当の名前は「饒速水小白主(ニギハヤミコハクヌシ)」。
「白」の字を取られて「ハク」と呼ばれていたというわけですね。
ハクの正体は神様?
さて、ハクの名前からその正体について探っていきましょう。
物語の中で、饒速水小白主(ニギハヤミコハクヌシ)は「コハク川」という小川の神様として描かれています。
神様のため、人の姿にも白竜の姿にもなることができますが、
マンション開発に伴って川が埋め立てられてしまい、帰る場所を失ったために湯屋の世界で働くことになりました。
饒速水小白主(ニギハヤミコハクヌシ)の漢字の意味
↓ハクの本名である「饒速水小白主」の漢字を分解すると、以下のようになります。
- 饒
ゆたか、十分にあるという意味 - 速水
水の流れが速いところという意味 - 小白
小さいという意味
コハク川は「自然が豊かな場所に流れる流れの速い小川」だったのかもしれません。
また、「饒速水(ニギハヤミ)」というのは、日本神話という歴史書に出てくる奈良県の神様の名前でもあります。
もしかしたらコハク川が流れていたのは奈良県だったのかもしれませんね。
千尋とハクは昔会ったことがある?
千尋は小さいころに川におぼれたことがあり、それがコハク川でした。
その際、コハク川の神様であるハクはおぼれていた千尋を助けたのです。
二人は湯屋で出会うずっと前に会ったことがあったのですね。
ハク正体は「千尋の兄」?
こちらは都市伝説的な内容なのですが、評論家の岡田斗司夫さんがニコニコ動画で展開した説です。
↓ごく簡単にまとめると以下のような説ですね。
- 千尋が近所の川でおぼれかけた。
- 千尋の兄が千尋を助けたが、その兄はおぼれて死んでしまった。
- その兄は「良いことをして死んだ人」として祀られ、その川の神様となった
↓この都市伝説の根拠として、以下の3つが挙げられています。
- 千尋が溺れるシーンで「千尋を助けた者」にTシャツの裾が見える
- ハクの「自分の名前は思い出せないけど〜」というセリフ
- 千尋の母親の、千尋に対する態度
- 原作モデルと言われる「銀河鉄道の夜」のあらすじ
順番に見ていきましょう。
1.千尋が溺れるシーンで「千尋を助けた者」にTシャツの裾が見える
ハクの正体が明らかになった後、千尋が過去に川でおぼれてしまったシーンが描かれます。
その千尋を「千尋を助けた者」が登場しますが、
この者は子供のような手で、しかも足には「Tシャツの裾(すそ)」のようなものが見えます。
ハクが物語内での説明通り「小川の神様」であるなら、神様の姿か、おなじみの和服姿で描かれそうなものですよね。
当然、制作側もこれが不自然であることには気付いていたはずです。
そこをあえて変更しなかったのは、「溺れる千尋を助けたのは人間である」ということを暗示したかったのではないか、
という分析です。
2.ハクの「自分の名前は思い出せないけど〜」というセリフ
物語の中でハクが「自分の名前は思い出せないけれど、千尋のことは小さいことから覚えている」とのべていることが挙げられます。
神様とは言え、「小さい頃から覚えている」というのはやや不自然な感じがしますね。
その点、ハクが千尋の肉親の兄であったのならしっくりくるというわけです。
3.千尋の母親の、千尋に対する態度
また、「千尋の母親」の千尋へのなんだか冷たい態度も根拠として挙げています。
すべりやすい川岸を家族3人で歩くシーンも、
母親は千尋に「気をつけなさい」というだけです。
この点についても、「千尋を守るために愛していた長男が奪われた」という意識が母親にもしあったとしたらしっくりきます。
4.原作モデルと言われる「銀河鉄道の夜」のあらすじ
さらに、千と千尋の神隠しがモデルにしたと言われる、
物語「銀河鉄道の夜(宮澤賢治の作品)」の内容も根拠として挙げられます。
(※「ジブリの森とポニョの海」という書籍の中で、宮崎駿監督は千と千尋の神隠しを描くにあたって、「銀河鉄道の夜」を物語のイメージとして持っていたとコメントしています)
銀河鉄道の夜の登場人物「カンパネルラ」は、「友達が川でおぼれてしまったが、それを助けるため自分はおぼれ死んだ」というキャラクターです。
このキャラクター設定に宮崎駿監督は影響を受け、ハクというキャラクターを描いたのではないかというわけです。
以上はもちろん、岡田斗司夫さんによる1つの分析に過ぎないのですが、その根拠を見ていくとなかなか信憑性が高そうな感じもしますね。